くらげ
      柴田神秘水



母の水のなかで
ぼくは生まれて
ぷらぷらしたなら
やがて水底に沈む運命にあったらしい

ぼくがぼくであることに
初めて気がついたのは
きくらげのように成長した
ある日だったように思う


ぼくには口がある
そう思った記憶がかすかに残っている

やがて手足が生えて
毒針を飛ばすことをおぼえると
貪欲に
いちさな海老たちを口に運ぶことに
僕は夢中になった

恋することもわすれて
クラゲを研究する人もいるそうだが
その気持ちがとてもよくわかった

あの博士もポリプ人だったんだ


お腹がいっぱいになると
ぼくはとても眠くなった
気がとおくなって
意識がなくなっていく


ふと気がつくと
確かにぼくだと
ぼくは生きていると
ぼくの口を見ることで
安心できた

ぼくには目があったから
ぼくの目の前に
ぼくはぼくなんだと口を見ながら安心している
もうひとりのぼくをみつけることができた


ぼくは中学生
もうひとりのぼくも中学生
もうひとりのぼくは
さらにもう一人のぼくを見つけて
おまえも中学生か
といって笑った

クラゲ博士はポリプ人だったが
中学生はエフィラ人と呼ばれた


中学生とクラゲ博士と
もっとも違うところ
それは
中学生は死を意識し
恋をすることだ

見よあの美しい景色を
陽の光がゆらゆらと揺れている
虹色にかがやく水底の

ぼくはいつのまにか恋をしていた
もうきくらげではなく
りっぱなクラゲだった

死はまじかにせまっていた
空には星々が光り
そのわずかな光が
ぼくたちのからだを
虹色に照らし出す